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以下設定小説です。
誰もが眠りに付く眠りの森があった。眠りに付くと言っても森に入ったら寝てしまうと言うわけではない。本当に眠りに付いたものだけがその意味を知ることができる森。その奥に一人の魔法使いが住んでいた。その魔法使いは黒いローブを着て腰が曲がり鉤鼻のいかにも怪しげなお婆さん・・・なんてことはない。身長はそれほど高くはないが、少し長めの結っている髪は金で(この国ではいたって普通の色)蒼い大きな瞳。少々幼い顔はしているがいたって普通の少年である。
 少年の名前はレン。それが通称なのか、それとも本名なのか定かではないが其処は生きていく上ではさほど問題ではない。このレンという魔法使い、驚くべきことに14歳にして世界で5本の指に入るくらいの実力の持ち主である。高度な魔法をマスターし、今では火や水を操ることは息をするのと同じくらい自然に出来る。魔力は中級の魔法使いが数人集まっても超えられるかどうかというほど。
 しかし、彼は認められなかった。彼には足りないものがあった。ただ、魔法使いといってもカボチャを馬車に変えるとかドレスを出すとかそういった御伽噺のようなものではない。どちらかというと王様の護衛とかモンスター退治といった戦闘用のものが主だ。そんな魔法使いの力の中で彼に足りないもの。守る力・・・回復系や防御系など攻撃以外の一切の魔法が使えなかった。
 本来ならば攻撃系のものよりも先に覚えるのだが、彼には一切使うことが出来なかった。何度も試したのだが、呪文を詠唱しても、まるで小さい子供が初めて魔法を練習しているかのように何も起こらない。毎日練習しているのだが進展は未だに見られない。そんな彼の苦労も知らない人々は攻撃的な魔法使いとして避けていた。それでも彼には信じてくれる人がいた。リンという同じ歳くらいの少女だ。
 肩までの髪は明るい金色で、蒼い大きな瞳。頭には大きなリボンを乗せている。いつも気がつくとレンの家に無断で入り、寝ていたり食事を作っていたり、まるで自分の家のようにくつろいでいる。寧ろ彼女自身の家にいるよりもレンの家にいるほうが多い。もしかしたら買出しのために街に行っているだけで自分の家には帰ってないのかも知れない。
 「この森は暗いしモンスターなども多いから近づくなって言ってるだろ・・・」
レンが一回だけそう言ったのだが彼女から返ってきた答えに何も言い返せなくなった。
 「そうなったらまた、レンが助けてくれるでしょ」

 
 リンとレンの出会いは1年ほど前に遡る。興味本位なのかそれとも何か用があったのか彼女は話そうとしないが、眠りの森でモンスターに襲われていたところを助けた。その時、足を怪我したリンを家に連れて帰り手当てをしてから、ほぼ毎日この家に来るようになった。このことを知らない人はいないと言うくらい街では広まっていた。その間わずか3日である。それから街に出るたびに「リンを攫った魔法使い」という囁きがあちらこちらから聴こえてきた。その度に鬱陶しそうな顔をするレンにリンは笑っていた。当時から、そんなことを微塵も気にしない様子のリンは正に今、昼食を作っている。今日はどうやらサンドイッチのようだ。あまり大きくはない丸いテーブルにサンドイッチと牛乳、サラダが運び込まれてくる。リンの動くその様子を見ているレンの瞳は出会ったときよりも優しく、大切なものを眺めているように見える。その視線に気がついたリンは頬を少し赤くした。
 「もう、私なんか見てても仕方ないでしょ」
 「そんなことはないだろ。じゃぁ、何でリンはいつも俺のこと見てるのさ。俺なんか見てても仕方ないだろ?」
ニヤリと笑みを浮かべながら返すとリンはさらに頬を染める。その表情も何もかも全てが愛おしい。
 出会ったばかりの頃は、ただの可笑しな女だと思っていた。このモンスターだらけの森に入ってくるなんて正気じゃない。しかも、街で避けられている魔法使いと知っているのにその家に居座る。正直言って邪魔だった。一人にして欲しかった。それがいつの頃からだろうか、リンが来るのが当たり前になっていた。だから、なかなか待っても来ない日はモンスターに襲われてないか心配になって見に行ってしまうほどだった。そう、それくらい彼女に依存している。もう、彼女がいない生活が考えられない。
 「・・・ん、れ・・・れん?」
 「え、あ・・・何?」
 「困ったような顔したまま止まってるから・・・」
 どうやら随分と長い間考えていたらしい。彼女は昼食を食べ終わっていた。
 「リンと出会ってからのこと思い出してた」
 「へぇ、それでどうだった?私と出会ってから何か変わった?」
興味津々なのが見てわかる。
 「あぁ、変わったよ」
 「どんな風に?」
自分がレンを変えた。ということが嬉しいのか笑顔で続きを促してくる。リンの中では「変わった」=「良い変化」という公式が成り立っているのは間違いない。彼女はそういう人間だ。かといって彼女の考えが間違っているわけではなかった。今回ばかりは口惜しいぐらいにあたっている。素直に話せば彼女が喜ぶのは目に見えていた。だから絶対言ってやらない。そう思ったレンが言ったのは一言。
「内緒」
リンは不満そうな声を上げたが直ぐに笑顔になる。そんな彼女につられたのかいつの間にかレンも笑顔になっていた。


 その夜、話は唐突に始まった。
「ねぇ、レン知ってる?」
「何を?」
寝る準備をしていた手を止め振り向くと、ソファに座っていたリンはうつむいていた。
「知らないんだ・・・」
彼女と話しているとたまにこういうことがある。確実に一番大切な言葉が抜けている。が、本人は抜けていることに気づいていない。それほどまでにそのことで頭がいっぱいなのだろう。こうなるときは決まっている。彼女が不安なときだ。
ゆっくりと近づき隣に座る。そのまま腕を引っ張って向かい合うようにして抱きしめるとポツリポツリと話し始めた。
「流行病・・・今、街で風邪が流行ってるんだって。でも、ただの風邪じゃなくて・・・とっても強い魔法使いに直ぐに治して貰わないと、死んじゃうんだって。しかも治してもらうのにたくさんお金が必要なんだって・・・私たちみたいな街娘には一生かけても稼げないくらい必要なんだって」
今にも泣き出しそうな声で話続けるリンの背中をゆっくりと、子供にするように背中をトントンと叩く。きっと昼食の後、街に言ったときに聞いたのだろう。
「だけど・・・ね、実際は・・・お金があっても、治せないんだって。あの、ルカさんって言うとっても強い、魔法使いでも治せなかったんだって・・・」
驚いた。ルカの名前がこんなところで出てくるなんて思ってもいなかったから。
彼女はレンと同じく世界で5本の指に入るほどの魔法使いだ。その中でも回復魔法を誰よりも得意としている。回復魔法で彼女に勝る者はこの世界にはいないだろうと言われている。そのルカに治せないとなるとただの流行病では無いことは確かだ。
 耐え切れなくなったのかリンはもう泣き出している。
「やだよ、やだ・・・・」
 死にたくない。後に続く言葉は言わないがきっとリンはそう思ってる。いや、リンだけじゃないこの病に感染した人もその家族もみんなそう思っているはずだ。そして、レン自身もそれは例外ではない。もし此れが数年前だったらそうは思わなかっただろう。両親は小さいときに死に、それ以来、この森で一人で暮らしていた。何の為に生きているかもわからなくて死んでも良いと思っていた。けれど今は違う。リンがいる。この笑顔を、温もりを知ってしまった。それを手放すなんてことは出来ない。
 リンが静かになったから顔を覗くと泣きつかれたのか眠っていた。起こさないようにそっと抱きかかえ自身のベッドに寝かせる。赤くなった瞼に口付けをし、レンはソファに転がり夢の中へと落ちていった。


 それから暫く、レンはリンを自分の家に泊まらせた。今や、街は感染源でしかない。そんなところにリンを帰すわけには行かなかった。そうしていたのに、恐れていたことが起きた。リンから話を聞いて数日後、彼女は倒れた。


「お前・・・感染してるじゃないか!!何で今まで黙ってたんだ!!」
リンにそう言った彼だが、彼は彼自身に怒りを覚えていた。ずっと一緒にいながら気づいてやれなかった自分に。
「リン・・・」
何を言おうとするたびにリンは笑顔を浮かべる。しかし、彼女はギリギリまで隠していたのだろう。苦痛に耐えながら無理に笑っているのが誰の目から見ても直ぐわかる。
「もういい」そういって彼女の手をとったレンは驚いた。手が冷たい・・・。まるで氷のように。
 怖い・・・リンを失うことが・・・。
 そう思ったときにはレンはリンを抱きしめていた。氷のように冷たい身体で、生きているのか不安になったが、こうしていないと彼女がいなくなってしまうような感覚に襲われた。
 何が、「史上最強の魔法使い」だ。ただ、強い魔法が使えるだけ、歳が若かっただけ、魔力が多かっただけ・・・。ただそれだけだ。護りの魔法も治癒魔法も使えない。愛する人すら救うことの出来ないただの無力な魔法使いじゃないか!
「泣か、ないで・・・ね?」
リンの手が頬に触れレンは初めて気がついた。自分が泣いていると・・・。
「大丈夫・・・貴方は、最強の、魔法使い・・・だって、ほら・・・約束、私だけの王子様」
リンの笑顔が温かい。今までの苦痛に歪められた笑顔ではなくいつもの優しい笑顔。それと同時に身体の中が、心が温かくなった。あぁ、そうか・・・
 ゆっくり目を閉じ一呼吸置いた後に魔力を解放する。今、使える魔力を全て使い魔方陣を形成する。その大きさは街がひとつ納まるほどだった。これほどまで大きい魔方陣をつくる彼は正に最強の魔法使いと言えるだろう。
 もう一度、深呼吸をした後、白い光りが彼らを包んだ。街も大通りから脇道まで全てが白くなる。史上最強の治癒魔法。
「レン・・・やっぱり貴方は、私だけの王子様だね」
そういって彼女は微笑んだ。
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